厳しい暑さが続いたら、一転して今度は台風。そしていよいよ放射能は全国に広がりをみせはじめ、なでしこジャパンの活躍に胸を熱くし世俗の憂さをひととき晴らしてくれはしたものの、それを伝えるテレビの画面は地デジ化を急げと、画面上下の字幕だけでも鬱陶しいのに、さらに画面の中にまで入り込み左下ほぼ9分の1を使ってあと何日と字幕が重なろうがお構いなし、国民の知る権利をすら奪う勢いで恫喝紛い。クロスオーナーシップのせいなのかどうなのか、この世紀の愚挙を新聞は何一つ批判する事もなくついに目前。人皆唯々諾々、いささかオーバーに言えば、日本人の「『一億玉砕』という世界の歴史にない」(鶴見俊輔)恐るべき事態に突き進んだあの経験が、ふと頭をよぎる今日この頃です。
というわけで久しぶりの投稿は、結局今回もまたますますその広がりが明らかになっていく放射能汚染のことなど、原発事故について少し留めておこうと思います。
ここのところ連日、福島県産の肉牛から国の暫定基準値を超えた高濃度の放射性セシウムが検出され、全国のかなり広範囲に流通、一部は消費されたというニュースが報じられています。
その前には、原発から60キロの福島市の子どもの尿から、セシウムが検出されたというニュースが関心を集めました。また、放射性がれきやその焼却灰の拡散など、放射能汚染の広がりは全国に及んでいることが次第に明らかになりつつあります。
●スーパーホットスポットを次々発見 放射能汚染に新事実、この数値を見よ!全国1000ヵ所を独自調査http://gendai.ismedia.jp/articles/-/11933
●10万ベクレルまで大幅引き上げ=福島の放射性がれき埋め立て基準-環境省
http://ceron.jp/url/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110714-00000142-jij-pol
こうした汚染の広がりと、そして被ばくは、もはや3.11を境に世界が変わったとすら言えるほどの事態を、私たちの上にもたらしているようです。それは、この日本という放射能に汚染された列島で生きるという覚悟、汚染を引き受けるという覚悟、にもかかわらず、否、それゆえにこそきちんと展望する未来への覚悟が求められている、ということなのでしょう。
この被ばく、特に食品の放射性物質の暫定基準値について、厚生労働省が暫定基準値(飲食物摂取制限に関する指標)を出し、発表当初から、その基準の甘さ、というより異常さが指摘されていました。
異常すぎる日本の「暫定基準値」 乳児に与える飲料の基準は国際法で定められた原発の排水より上 http://news.livedoor.com/article/detail/5591773/
日本では乳児で1リットルあたり100ベクレル、成人でヨウ素300ベクレル セシウム200ベクレルと定められている。これだけでは一見どういった数字なのか分からないが、この数値と比べるとどれだけ異常な数字なのかが分かる。
なんと国際法で定められた原発の排水基準値は1リットルあたりヨウ素40ベクレル、セシウムは90ベクレルまでとなっている。つまり、乳児の暫定基準値ですら、現在の日本では原発の排水より高い放射性物質が残留しても良いという設定値になっているのだ。
つまり政府が定めた数値を守るだけなら、原発の排水で作ったミルクを幼児に飲ませて良いということになる。ちなみにWHOで定められた平常時の飲料の基準は1リットルあたり1ベクレルまでなので、それに比べると乳児ですら100倍まで基準が高められているのである。
また、野菜の暫定基準値についても1キログラムあたりヨウ素2000ベクレル、セシウム500ベクレルと設定されているが、これもWHOが定めた餓死を避けるための非常事態の数値、1000ベクレルの2倍ほどの数値だ。いくら暫定的な数値とは言え、事故以前に定められていた餓死を避けるための数値より高い放射性物質が残留している食品の流通が許可されているとは、非常に恐ろしいことではないだろうか。
※参考「世界もおどろく日本の基準値2000ベクレル」
http://kingo999.web.fc2.com/kizyun.html
実は、この数値を決定するにあたって、3月25日に行われた食品安全委員会の議事録からいささか不可解な質疑が行われていることが明らかにされています。
食品の放射性物質の暫定基準値はどうやって決まったか
http://katukawa.com/?p=4467
津金専門委員と滝澤専門参考人は、5mSv(10mSv)は健康に問題が無いので妥当であるという立場。10mSvまでの被曝は無害なので、その水準までの被曝に対策は不要という立場です。一方、中川専門参考人は、あくまで公衆被曝は1mSvが基本だが、現在の危機的状況を考えると基準をあげるのはやむをえないという立場です。中川専門委員の判断の妥当性を、ここでは論じることができません。なぜなら、現状がどれほど危機的な状況かという情報を、我々は知らされていないからです。中川専門委員は、原子炉の状態を始め、我々一般国民が知り得ないレベルの情報を持っています。その上で、高度な専門知識を駆使して、「公衆被曝限度の1mSvを大幅に上げなさい・・・そうでなければ生きていけない」とまで、断言しているのです。この言葉はものすごく重たいです。ぎりぎりの危機対応を迫られている状況にもかかわらず、その情報が国民と共有されていないという点に、私は不満を持ちます。
そして、政府と東電は、5月12日に1号機のメルトダウンを、同24日に2,3号機のメルトダウンを認めました。しかも2号機は地震発生から約101時間後、3号機については約60時間後に起こしていた発表しています。
政府・東電の発表に批判的な専門家は、事故当初からメルトダウンの可能性を指摘していましたし、原子力安全委員会の斑目委員長は、5月16日の記者会見で、1号炉のメルトダウンを認めた後、
「3月下旬に2号炉のタービン建屋の地下で高濃度の汚染水が発見された時点で、我々は少なくとも2号炉は、はっきりいってメルトダウンしていたとの認識がある。燃料が溶けなければあのような高濃度の汚染水は発生しない。ちなみに2号炉でそうなので、1号炉、3号炉についても、事故の経緯をみると同じ様な事が起こっているだろうと言う事は想像していたところだ」と述べた。(5月16日excite.ニュース)http://www.excite.co.jp/News/net_clm/20110516/Ncn_2011_05_1-23.html
日本は、SFの世界で描かれてきた核戦争後と同様の近未来を、いよいよ現実として生きる時代に入ったようです。
放射線被ばくの影響について、大変わかりやすいインタビュー記事がありました。もはや日本に住む者にとって、こうした知識は必須のものになってしまいました。以下全文を紹介いたします。
牛肉からも高濃度の放射性セシウム検出 放射能が身体に与える影響を考える
――崎山比早子 元放射線医学総合研究所主任研究員・高木学校メンバーインタビュー
早川幸子 [フリーライター] 2011年7月15日
福島第一原子力発電所の事故から4ヵ月が経過した。当初、漏れ出た放射能による汚染は福島原発周辺の市町村だけと伝えられていた。しかし、その後の自治体などの調査で、国が定めた避難区域以外にも一般の人の年間被ばく限度を超える可能性のある汚染地域が存在することが明らかになり、住民は不安をつのらせている。
6月6日、筆者が共同主宰する「日本の医療を守る市民の会」では、被ばくについての正しい知識を市民に届けるために、元・放射線医学総合研究所主任研究員で医学博士の崎山比早子氏(「高木学校」メンバー)に改めて放射線が身体に与える影響についてインタビューした。
被ばくに安全な「しきい値」など存在しない
――福島第一原発事故の対応策として、国はこれまで1mSv(ミリシーベルト)だった一般の人の年間被ばく限度を、緊急時ということで20mSv(暫定基準値)まで引き上げました。福島の母親たちを中心とした運動によって、子どもの被ばく限度は1mSv以下を目指すことになりましたが、避難地域に指定されていない伊達市や川俣町などには年間被ばく量が外部被ばくだけで20mSv以上に達する地域が点在しています。低線量被ばくは「CT検査1回分の線量だから大丈夫」「広島の原爆被害者の調査でも100mSv以下ではがんは増えていません」という専門家もいますが、本当に健康への影響はないのでしょうか。
放射線被ばくの障害は、被ばくした線量によって急性障害と晩発障害に分けられます。一度に大量の放射線を浴びると、短時間で嘔吐、下血、吐血、紫斑、脱毛などの急性障害が現れますが、いちばん軽い症状はリンパ球や白血球の一時的減少です。これが出始める100~250mSv付近が、急性障害の「しきい値」(この線量以下ならば被ばくしても急性症状がでないという値)となっています。
福島第一原発事故のあと、テレビで政府関係者や専門家が「ただちに健康に影響を及ぼす線量ではないから安心」と繰り返したのは、この急性障害を引き起こすような線量ではないということでしょう。
100~250mSv以下の低線量被ばくは、すぐに目に見える形で健康被害が出るわけではありません。だからといって安全なのではなく、被ばく後、数年~数十年たってから、がんをはじめとしたさまざまな病気になる危険性があるのです。これを晩発障害といいます。
アメリカの原爆障害調査委員会(ABCC)が始め、その後、放射線影響研究所が引き継いだ広島原爆被爆生存者約9万人に行った生涯追跡調査によると、がんの他に、心疾患、脳血管疾患、消化器疾患、呼吸器疾患も増加することが明らかになっています。この人たちの平均被ばく量は200mSvですが、半数以上は50mSv以下です。とくに、がんの死亡率は被ばく線量が多いほど増加しますが、この線量以下ならば被ばくしても害はないという「しきい値」は見つかっていません。
広島・長崎の被爆者追跡調査は世界でも信頼性の高い研究として評価されており、国際放射線防護員会(ICRP)もこの調査結果に基づいて「発がんには『しきい値』はない」という勧告を出しています。また、米国科学アカデミー(BEIR VII)、国連科学委員会(UNSCEAR)、欧州放射線リスク委員会(ECRR)も、低線量被ばくの「しきい値なし直線説」を採用しています。それなのに、日本の医療者の中にはABCCの調査結果を無視するような発言をする人がいるのです。もしも「100mSvで害がない」というなら、この調査を上回るしっかりとした科学的根拠を示すべきだと思います。
――1986年のチェルノブイリ原発事故のあとで、子どもの甲状腺がんが増えたと聞くのでとても心配です。どれくらいの割合で増えたのでしょうか。
チェルノブイリ原発の事故が起こる前までは、ベラルーシ共和国では小児の甲状腺がんは年間数人でした。ところが、事故の4年後の1990年には15歳未満の子どもの30人程度に甲状腺がんが見られるようになり、1995年には90人近くまで増えています。これは原発事故の影響といって間違いないでしょう。
――被ばくをすると、なぜ、がんになるリスクが増すのでしょうか。
がんは遺伝子の異常によって起こる病気で、複数の遺伝子の変化が積み重なってできるものです。がんが高齢者に多い病気なのは、長く生きている間に環境中にある化学物質、放射線などによる変異が蓄積するからで、環境中に放射能が増大すると、その変異を促進すると考えられています。
人間の身体は約60兆個の細胞によってできており、細胞は日々生まれ変わっています。ひとつひとつの細胞には身体の設計図となるDNAがあり、細胞が分裂するときは設計図通りに複製されて新しい細胞に伝えられます。放射線を浴びると、このDNAに傷がつきます。細胞はDANの損傷を修復しようとしますが、複雑な損傷で、数が多くなると修復できなくなります。
1999年に東海村で起きたJCO臨界事故では、作業員の方が1万7000~2万mSvもの高線量の被ばくをし、修復不可能なほどDNAに損傷を受けました。本質的な治療は切断されたDNAを正しくつなぎ合わせることですが、そのようなことはできるはずもありません。被ばくの当初はほとんど異常がないように見えましたが、細胞が入れ替わる時期から皮膚がむけおち、腸管からの下血、感染症が始まりました。そして、最新の治療を受けましたが、83日後に亡くなりました。主治医は「医療の限界を痛感した」と言っています。
低線量の被ばくでも、本質的に細胞に与える損傷のメカニズムは同じで、身体の設計図であるDNAに傷をつけてしまうということです。年間被ばく量1mSvということは、1年かけて全身の細胞のDNAに平均して1本の放射線が通るということを意味します。そのときにできた傷が正しく修復できないと、異変をもったままDNAが複製され、次の細胞に受け継がれていくことで、将来的にがんを発症する可能性がでてきます。20mSvの被ばくだと平均20本の放射線が通ることになり、それだけDNAが損傷されて異変の可能性が高まり、発がんのリスクも高まることになります。
さらに、放射線被ばくの影響は、がんだけではなく、さまざまな病気の発症にかかわっているという研究データもあります。
セシウムの高線量地域では子どもに高血圧、糖尿病、白内障などの症状が見られる
――被ばくによる障害は、がんのほかに、どのようなものがあるのでしょうか。
1997年にベラルーシ共和国のゴメリ州で、10歳までに死亡した子ども52人を病理解剖して、セシウム137の臓器別蓄積量を調べた研究論文があります。(Bandazbervsky Y.I. Swiss Med Wkly 133,2003)
日本の専門家の中には「セシウムは骨格筋にしか蓄積されない」という人もいるのですが、この論文によると、骨格筋より甲状腺に圧倒的に高いセシウムが蓄積されています。その他、副腎、膵臓、胸腺にも高線量のセシウムが蓄積されていますが、これらはすべて身体の成長や代謝に重要な働きする内分泌系です。ここに高線量のセシウムが貯まると、ホルモン分泌も悪くなったりして、成長を妨げることになります。そのため、なかなか身体が大きくならなかったり、虚弱体質の子どもが増えたそうです。ゴメリ州には糖尿病の子どもも多いのですが、膵臓にセシウムが蓄積することで、インシュリンの分泌に影響を与えていることも考えられます。
内分泌系以外にも、小腸、大腸、腎臓、脾臓、心臓、肺、脳、肝臓にもセシウムは蓄積しており、呼吸器疾患や消化器疾患を繰り返したり、脳神経疾患、先天異常、白内障などもあるそうです。また、高血圧、低血圧、心電図の異常など心臓血管系の疾患が多いという調査結果もあり、まるで高齢者のような病気を患う子どもがいることにも驚きます。脾臓などの免疫系にも蓄積が見られるので、免疫機能が低下し、感染症を起こして病気になりやすくなります。疲れやすく、ひとりで2つ以上の病気を抱えている子どもが多いのも特徴です。以前は全体の80~90%の子どもが健康だったのに、チェルノブイリ原発事故以降は20%程度しか健康な子どもがいなくなったということです。
放射性セシウムは、カリウムやナトリウムと似た性質なので、これらが蓄積する器官にはセシウムも蓄積しやすいという考えもありますが、こうした病気が出る原因はまだはっきりとは分かっていません。しかし、チェルノブイリの今は、25年後のフクシマの姿です。私たちはチェルノブイリから多くを学び、子どもたちの健康を守るための努力をしなければならないと思います。
――被ばくの影響を少しでも取り除くにはどうすればいいでしょうか。
放射線の強さが半分に減少するまでの期間(半減期)は、それぞれの放射性物質によって異なります。たとえば、プルトニウム239は2万4100年ですから、呼吸などによって取り込まれると、一生、体内で放射線を出し続けることになり非常に危険です。しかし、セシウム137の物理的半減期は30.2年で、人間の身体の中で実際に減少していく生物学的半減期は100~110日です。さらに、新陳代謝の活発な乳児は、大人の5分の1の期間で放射線量が減少していきます。
ベラルーシで、汚染のない環境に子どもを移して、汚染されていない食べ物を与えて、体内のセシウムの量を測定したデータがあります。この時、同時にりんごの乾燥粉末(15~16%のアップルペクチンを含む)5gを、1日2回、服用させているのですが、3週間後には体内のセシウムが62.6%減少しています。
福島のお子さんも汚染のない環境に移住できるのが理想ですが、それが難しい場合は夏休みだけでもいいので、汚染のない地域にいる親戚やボランティア団体が開催しているサマーキャンプなどのところに行かせられるといいと思います。
チェルノブイリ原発事故によるセシウムの汚染が高い地域で、肉(牛肉、豚肉、羊肉)、きのこ類、ベリー類、牛乳を摂っている人は、これらをまったく摂っていない人に比べて、体内汚染の値が約3倍も高いという研究があります。ロシアとは食文化が違うので、これをそのまま日本に当てはめることはできませんが、肉類や牛乳、きのこ類などを食べるときは汚染がないかどうか注意することが必要だと思います。
体内被ばくを避けるためには、できるだけ放射能で汚染された食品を食べないようにするしかありませんから、国や行政は食品の放射能測定をもっときめ細かく行うべきだと思います。チェルノブイリ原発事故のときは、放射能汚染の高い地域には汚染されていない食品を送って、優先的に食べてもらおうという運動がありました。日本の一部でも、そのような運動が起こっています。
――福島第一原発の事故のあと、「ヨウ素剤は副作用があるので飲まないように」と発言をした専門家もいましたが、ヨウ素剤はそれほど副作用の大きな薬なのでしょうか。
放射性ヨウ素が体内に入る前から直後までにヨウ素剤を飲めば、甲状腺に入る放射性ヨウ素の93%を抑えられます。しかし、6時間後の服用では10%に減少してしまうので、ヨウ素剤は事故が起きたらすぐに服用することが大切です。
万一の事故に備えて、フランスやドイツ、ベルギーなどでは、原発の周囲5km以内には各家庭にヨウ素剤が事前に配布されています。ところが、日本の原子力安全委員会のヨウ素剤検討会では、「誤った服用による副作用をさけるために家庭配布はしない」と決めたのです。
しかし、ヨウ素剤には副作用はなく、チェルノブイリ原発事故のとき、ポーランドでは1050万人がヨウ素剤を服用しましたが、副作用の報告はされていません。日本でも家庭配布していて、爆発後すぐにヨウ素剤を服用していれば、もっと被ばくを避けられたかもしれないと思うと、とても残念です。ただし、飲み過ぎると甲状腺機能を抑えてしまうので、続けて服用するのは避けてください。飲み過ぎた場合は、服用を止めれば元に戻ります。
こんなにも苛酷な事故が起きたというのに、今だに原発が稼動している地域があります。万一の事故に備えて、ヨウ素剤の配布のあり方は早急に見直すべきだと思います。
http://diamond.jp/articles/-/13135 ダイヤモンドオンライン 特別レポート
「誰かの健康を害してしか成り立たぬような文化生活であるのならば、その文化生活をこそ問い直さねばならぬ」、とは1974年に上梓された『暗闇の思想を』(松下竜一著)の中の言葉です。
この本は、著者の松下竜一氏を中心とする地域住民が、九州北部の瀬戸内海に面する周防灘沿岸を埋立て、一大コンビナートを建設しようとする国策の中核となる電力供給基地・豊前火力発電所の建設に反対し、弁護士をつけない本人訴訟という前代未聞の方法で環境権を訴えた裁判を起こすまでの、その発端からの過程を記録したものです。
裁判には負けたとはいえ、この豊前環境権裁判は、伊達火力発電所建設差し止めを訴えた伊達環境権裁判とともに、日本に「環境権」という概念を確立するために大きな役割を果たしました。
3.11後からずっと気になっていたこの『暗闇の思想を』を、今回「松下竜一その仕事」という松下氏の全集で再読しました。今を撃つ言葉が、37年を経てもなお褪色するどころか、さらに輝きを増して胸に迫ってきます。
・・・郷土の花を、川を海を山を詠い描きながら、それが破壊されようとする時、闘いの戦列に加わらぬ詩歌人や画家は、いかに作品が美しかろうとニセ者だ。もし今、私たちが沈黙していて周防灘開発を許したなら、公害は幾年かののちの子や孫を苦しめるのである。その時の子や孫にとって、今一見やさしく沈黙して見過ごした父母がやさしかったのか、今一度荒々しく激しく闘ってこれを撃退した父母がやさしかったのか、・・・。(『暗闇の思想を』「第一章始まり~匿名氏よ」より)
・・・豊前市議会はほとんど全員一致で賛成した。だが豊前市民は、豊前火力問題を想定して市議を選任したわけではないのだ。彼らに火電賛否の票を預けたわけではない。彼らが火電問題を討議するに十分な知識を有しているとも、市民は信じていない。まして市議の大半は開発に利益関係の深い土建業者で占められているのであってみれば、とうてい一般市民の『声』の代弁者とは呼べまい。(同「第三章冬から春へ~暗い冬」より)
・・・豊前火力に賛成する市民の多くは、むしろ己を良識派だと信じているらしいのだが、それはつまり単なる地域エゴを突き抜けて、『国の発展』を考える大義に立脚しての判断をくだしているのだという自負から発しているのだろう。そこには『国の発展』は疑いもなくいいことなのだという絶対的信奉があり、『国の発展』のためには電力需要急増は必須であり、ゆえに良識的大義に立つほど豊前火力に賛成するのは当然という論理になるのである。(同「第四章論理を模索する旅へ~舌で味わってほしい」より)
珠玉のような言葉やエピソードなど、紹介したい文章は枚挙に暇がないほどですが、あえて厳しい指摘の部分だけを、それも数例だけ書き写してみました。
そしてこの記録は、「ぼくらは、建つ前も反対だったし、建ち始めても反対だし、煙を吐き始めても反対するのです」(同後記より)という伊達火力発電所反対運動の中心だった医師、斉藤稔さんの言葉で結ばれています。
ついでながら最後にもう一つ、この『暗闇の思想を』が掲載された号の解説(「資本主義の彼岸へ」山口泉著)に引用された文章を。
「大量消費時代がもてはやされた。技術というものを真面目に考えない、しかも目先の利潤のための技術ばかりがのさばって、人間がひどい目にあう。そこで、なにかというと、許容量ということばで正当化しようとする。許容量という概念は、だいたいが人権を基本にしなければならないものである。それを利潤を基本にした概念に変えてしまっている。
基本的に、なんで自分はそんなひどい目にあわなければならないのか、なんで光化学スモッグなんか吸わねばならないのかという問題、これが人権、人間の権利である。
それに対して、この程度なら安全だとか、この程度なら害はないというようなことを平気で言う。それに許容量という概念を使う。」(武谷三男『市民の論理と科学』より)
これは1975年に書かれたもので、光化学スモッグを放射能に変えれば、全く今!です。
それでは皆様、くれぐれもご自愛を、切に!