2009年02月09日

感想、続報

アンケートの感想に引き続き、この名古屋上映にご支援を頂いている樹林舎様より、あらためてご感想を頂きました。個人宛のメールですが、それは、感想というより「論」に近いもので、ぜひ公開させてほしいとこのたび筆者のご了解を得て本サイトでご紹介することに致しました。


<短くドラマチックにまとめやすいテレビ局制作のドキュメンタリーとは違い、派手な編集は周到に避けられているように感じました。全体的にとても静謐なトーンで、向山コウメという人の歌へのあこがれと普及への情熱が、しっとりと伝わってきました。
よくあれだけの写真資料を集められましたね。取材者の粘り強い取材力のおかげですね。
戦前のフィルムのアーカイヴをひっくり返して、テーマに適うように選び出すのにもご苦労があったと拝察します。

冒頭で「海岸に押し寄せる波の向こうに富士山」という構図が登場し、いきなり全体の概念を象徴させてしまうような窮屈なスタートだなあ…と思っていたら、ラストの房総半島の終の棲家からの眺めとわかり、思わず膝を打ちましたよ! 日本人の心が小梅の歌心にシンクロしましたね。みごとにやられました。

また、冒頭の煙突に月、浴衣姿の輪踊り…なんだかこう、柳田國男の『雪国の春』に収録される「清光館哀史」のなかの小子内の浜で踊られた不思議な歌の盆踊りシーンを彷彿とさせますね。庶民のくらしの喜怒哀楽がそこはかとなく表出する現場が、民謡であり、踊りである…という我が国のハレの文化を映像がしみじみと語っておりました。

渋谷の雑踏のローアングルもフィックスで、みだりにパンやティルトを使わないことに、しっかりしたポリシーを感じましたが、舟木一夫や島倉千代子の語りを撮影するときは、それと気づかれぬように極ゆっくりとですが、カメラを引いていますね。あそこもさすがですね。
ともすると、証言が多くなると、観客の退屈さを恐れるあまり、インサートする文字を演出したり、変なドラマをこしらえて過剰に「作りこんで」しまいがちですが、それをこらえて、人の言葉を紡いでゆくどっしりとした姿勢が好感を呼びますよ。

それでも起承転結はよくわかり、前半の結節点となる、コウメ→小梅となるデビューのきっかけである、『航海ランプ』でしたか、船頭さんと酒を飲みながら毎日波間に船を出しては、たゆたう気持ちを歌いに籠めたという心意気を語るシーンは圧巻でした。ラジオ番組の録音で彼女自身に語らせることができたのはよかったですね。うねる波だけを写して、あえて小舟などを演出で入れなかったのがたいへん効果的でした。観客の想像力をかえって増幅させることに成功しています。余分なものは入れるな、対象そのものに語らせろ…という基本ですね。

そのほか、感じたことをいちいち挙げると山のようにあるのですが、また、後日、再度時間をおいて拝見したのちにでも、まとめて『小梅姐さん』を語りたいと思います。

ただ、ひとつ、気になった感想をお伝えします。水谷八重子さんのナレーションが、少し情緒的だったかな…と。もともと可愛く甘ったるい声で、昭和30年代にはハスキーなキャラメルヴォイスでブルースをものしていた水谷八重子さん(彼女の貴重な溜息ブルースのCD持ってます)ですが、深刻なことを語り伝える場面でも、彼女のナレーションですと、さほど苦しいことではなかったかのような印象になっている気配がしたものです。
NHKの加賀美アナウンサーのような語りがいいという訳ではありませんが、ナレーターの声に左右されずに、落ち着いて映像に没入できるというドキュメンタリーが好きです。

それにしましても80歳を間近にしてなおあの声の艶! 腰を抜かして驚きました。色気というものを思い知らされました。
小梅さんが地球とすれば、その周りを巡って地球を支える月のような存在が向山初子さんですね。最後の最後に、この方を正面から撮りきったのは素晴らしい!向山初子なくしては小梅さんはなかったでしょう。
小梅さんも歌で民衆を元気づけたが、小梅さん自身も数多くの方に支えられて我儘な人生を送ることができた…わけても向山初子さんの陰の努力は、この映画で初めて顕揚されましたね。よくぞこの映画に間に合った!生きていてくださってよかったですね。

ただ、そうであったとしても人間コウメの魅力はいささかも損ねられることはなく、むしろ、皆から慕われ、多くの人が彼女のもとに集まってきたという、コウメの生来の気立てのよさや剛胆で愛嬌のある性格が浮き彫りにされて、わずが1時間強の作品のなかから、赤坂小梅を知らなかった者にも、これだけのことを一挙に伝えることができた本作は、説得力のある傑作といって過言ではありますまい。

書き散らかしですみませんでした。
まずは、ファーストインプレッションということでご了解願います。>

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